本当はこわい体脂肪!? 寝たきりになりたくない人のために
20150202
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ななえ新病院健康管理センター
水谷 保幸

reten2寝たきりになりたくない!

健康に対する想いは、年代によっても異なるかもしれません。しかし多くの方が望むのは「寝たきりになりたくない」ということではないでしょうか?
実際には同じ「寝たきりになりたくない」気持ちにも、かなり個人差があるようです。「なんとなく(できれば)寝たきりになりたくない」と思うことと、「本当に(どうしても)寝たきりになりたくない」と思うことでは、思った後の行動には大きな差がでてくるのです。思いに違いがあるのは、「寝たきり」ということの感じ方に、大きな差があるからなのではないでしょうか。物事の捉え方には建前と本音があります(日本人だけという説もありますがーー)。「寝たきりになりたくない」という建前の根本には、「寝たきりになりたくない」本音があります。「寝たきりになりたくない」ことの建前は自立と自律という言葉で表現され、どのような状態でも「そのひとが、そのひとらしく生きる」ことが目標となります。簡単に言ってしませば、ここで言う「自立」は「体が思うように動かせる」ことであり、「自律」は「頭と心が思うように動かせる」ことです。では本音の部分ではどうでしょうか?残念ながら経済的な考え方も、本音の部分にはあるのです。この不景気で先の見えない現在の社会では、寝たきりになったら家族にいろいろな迷惑がかかるのではないかと考えたことはありませんか?何でも金銭に換算するのは悪いことですが、寝たきりになったら自己負担だけを考えても大雑把に「月に15万」もかかってしまうのです。とても年金だけでは払えないし、貯金だってそんなにはない!そうは思いませんか?本音の部分では、どうやら元気でいるということは「月15万の年金をもらうこと」と同じことだと考えられるようなのです。建前でも本音でも「寝たきりにはなりたくない」のだけれど、本音で考えた方がより切実なようです。本当に「寝たきりにはなりたくない」と思っていただけましたか?

reten2寝たきりにならないために

では、どうしたら寝たきりにならないですむのでしょうか?当たり前のことですが、寝たきりになる原因が分かれば、避けることが出来るに違いありません。原因がわかれば安心です。もし病気で寝たきりになるなら、病気にならなければよいのです。本当でしょうか?原因と理由(わけ)はちょっと違うかも知れないのです。寝たきりの原因となる病気は、どの本にもかいてありますが、脳卒中(脳梗塞)・骨折(転倒)・認知症(今はボケとは言わないんですよ、知っていましたか?)等です。実はこれらの原因となる病気には、さらに原因と考えられることがあるのです。それは簡単に言ってしまえば「老化」なのです。寝たきりになる理由(わけ)つまり原因の原因(本当の理由)は「トシをとること」といっても良いのかもしれません。では「トシをとること」はしかたが無いことなのでしょうか。周りを見回してみて下さい。70才くらいで多くの病気で「寝たきり」になってしまう方もおられますが、80才をすぎても、とても元気な方もおられます。基本的には「トシをとること」は1年毎に年齢を重ねることですが、体が(頭や心も)動かなくなることを「トシをとること」と感じている方も多いのではないでしょうか。実際に若い方では同じ年齢の方と「体力」はあまり変化がありません。年をとると同じ年齢の方でも「体力」の差は大きくなってくるようです。最近では、同年代の方との体力の差が拡大することが「老化」だという考え方もあるのです。どうして「体力」の差が大きくなってくるのでしょうか。こたえは「普段の生活」にあるのです。生活習慣病という言葉もだいぶおなじみになってきました。この言葉は生活習慣病=生活習慣+病とわけられます。これも簡単にいえば、私たちの普通の生活(生活習慣)が「病気」をつくる、そんな病気を生活習慣病というのです。老化が生活習慣病なのであれば、寝たきりになるような病気にならないためには本当に大事なことは、薬を飲むことや特別のことするのではなく、普段の生活習慣が大事らしいのです。

reten2体脂肪があなたを殺す

「寝たきり」は私たちが普通の生活と考えている生活習慣が作り出していることまでがわかってきました。では、どんな生活習慣から「病気」になるのでしょうか?細かい説明をするスペースがないのですが、どうやら「血管を硬くする(動脈硬化)」習慣が「老化」には悪いようなのです。この動脈硬化について整理してみます。動脈硬化に関係のある病気には高血圧(原因でもあり結果でもある)、糖尿病(原因)、高脂血症(原因)、心筋梗塞・脳梗塞(結果)、と最近話題になる病気のほとんどが含まれています。病気とまではいかなくても動脈硬化に関係のある病的状態には肥満(原因でもあり結果でもある)、運動不足(原因)、ストレス(原因)をあげることが多いようです。老化が生活習慣病であり、動脈硬化が老化に結びつくのであれば、老化とは肥満や運動不足という生活習慣によってなってしまう病気といえるのです。その指標ともいえるのが「体脂肪」でありメタボリックシンドロームの考え方です。メタボリックという言葉は「(糖・脂質)代謝の」という意味で、血糖の異常や、血中コレステロールの異常を表わしています。シンドローム(症候群)は、それによって起こってくる症状を表わしており、高血圧や肥満を意味します。メタボリック・シンドロームは、痛くも痒くもなく苦しくも無いのに、動脈硬化を起こし、知らないうちに「老化」を起こしていきます。そして「寝たきり」になってしまうという怖い病気なのです。

reten2メタボリック・シンドローム

メタボリック・シンドロームの全てを詳しくお話するスペースがないので、今回は肥満を中心にお話させていただきます。私たちがメタボリック・シンドロームに気をつけるためには、まず自分がどのような状態にあるのかを確認しなければなりません。そのためにやっていただきたいことがあるのです。とにかく体重、腹囲(腹回り)と血圧をはかっていただきたいのです。そして、たまにで結構ですから血液検査(健診)を受けていただきたいのです。皆さんは現在の自分の身長・体重を知ってますか?体重だけでは勘違いすることも多いのです。同じ70kgの体重でも、身長が150cmの人と170cmの人では意味が異なります。健康診断では、理想の体重を一緒に教えてもらうことが多いのですが、理想の体型になるのは難しいことです(もちろん目指すのは大事なことですが)。実際の体重と理想体重の差に驚いて、それだけであきらめてはいませんか?理想も大事ですが、寝たきりにならない(老化しない)ためには、理想だけを求める必要はありません。むしろ太っている程度を分かっておいて、少しだけ努力していくことは決してむだではありません。ちょっと危険(イエローカード)な太り方、かなり危険(レッドカード)な太り方をしっておくと、明日からのがんばりの目安となるのです。
イエローカード レッドカード
150cm 56.3kg 67.5kg
155cm 60.1kg 72.1kg
160cm 64.0kg 76.8kg
165cm 68.1kg 81.2kg
次は腹囲です。みなさんは自分の腹囲(ウエストではありません!)を知っていますか?現在の基準では男性 85 cm、女性 90 cm以上は、老化には危険と考えられています。動脈硬化にやっかいなのは体脂肪なのですが、この脂肪には量と質の問題があるのです。メタボリック・シンドロームで問題となるのは内臓脂肪と呼ばれる脂肪です。これをかなり直接的にあらわしているのが腹囲なのです。少しでよいのです、体脂肪を減らす努力を始めてみませんか?

reten2予防体力:病気にならないための体力

活動体力:肉体的・精神的・社会的活動を維持するための体力

生活体力:自立した生活のための体力

明日から何を始めてみましょうか?少し実例を紹介します。まず自分の体力年齢を測定してみることが重要です。多くのお話で紹介されているのでここでは割愛させていただきますが、運動を始めるにあたって、自分の体力年齢を知っておくことが必要であることは覚えておいて下さい。体力年齢60代の皆さんは、運動を積極的に行うのに最も適した年代の方たちです。この体力年齢の方たちが目指すのは予防体力の維持です。このための運動には多くのものがありますが、基本に含まれるのがストレッチと有酸素運動です。ストレッチは全ての筋肉に有効で、運動の障害予防ともなります。普段運動習慣が無い方では、ストレッチだけでも十分な運動となる場合があります。簡単に始めることができるのですが、最初は指導を受けて行ったほうが、安全ですし効率もよいのです。体操はストレッチより、筋肉に負担をかける場合もあります。またレジスタンス運動とよばれるマシントレーニングも有効です。マシンは若いスポーツマンのためだけにあるのではありません。限られたスペースで短時間で、必要な筋肉の運動が過不足なくできるのです。ですからスポーツ施設に通ってみることも有効な老化防止なのです。

さて体力年齢70代はどうでしょうか?この方たちは、体力の個人差がすでに大きくなっている可能性の高い方たちです。みんなが他の方と同じような運動を行う必要はないのです。体力年齢70代の方がまず目指すのは、事故のない生活のための体力です、この体力が生活体力です。代表的な例では転倒予防運動があります。この運動の目的は、体重を減らすためでも、体力をつけるためでもありません。日常の生活に必要な歩行という動作を安全に行うための準備運動を行うことで、結果として体力維持になっているのです。運動というと「つらい」ことばかりを想像しますが、ダンス(踊り)等のレクレーションも生活体力維持にとって非常に有効な運動です。民謡でもなんでもよいのです、音楽にあわせた全身の動きはコーデイネーション運動とよばれ、生活体力の基本となるものなのです。マシントレーニングも体力年齢60台と同様に有効です。高齢の方がマシントレーニングというと驚かれる方が多いのですが、パワーリハビリテーションとも呼ばれ、同じレジスタンス運動でも負荷を上げる必要はまったくありません。一般的に動かさない筋肉は動かなくなり、結果として動かせなくなります。レジスタンス運動は筋肉の動かし方の正しいガイドになるのです。正常な形で動かされた筋肉は、思った以上に生活体力の補助となるのです。

最後に明日から、すぐ運動したいと感じたあなたの明日のために魔法の式をお教えします。

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例えば、あなたが50才なら 136、55才なら 132。60才なら 128、65才なら 124、70才なら 120、75才なら 116、80才なら 112、85才なら 108です。これは運動が負担になっているかどうかを、自分の脈拍で測定できる目安なのです。昔から行っている運動は無理なく続けることができます。昔からゴルフをやっていた方は年をとっても続けることは難しくありません。ところがこの方が他の運動をやってみると思ったより負担がかかるのです。ジョギングだから大丈夫とか、ゲートボールは安全などとはいえません(他の運動より負担の少ないことは確かですが)。初めて行う運動、いえちょっと歩いてみたときでも脈拍を測ってみていただきたいのです。運動したあとの脈拍がこの数字程度であれば問題がありません。私たちが健康のための運動を行うときの目安になってくれる数字なのです。

運動には必ず準備が必要です。普段から運動されている皆さんにはなんでもない10分のジョギングが、運動不足の私にとっては無理な運動である場合もあるのです。健康体力のための運動は「根性」や「意地」で行うものではありません。「寝たきりにならない」ためにはじめた運動で無理をして、寝たきりになってしまうのでは意味がありません。できることから少しずつ取り組んでみませんか?

平成19年9月19日に七飯町保険センターでお話させていただいた内容に、少し加筆させていただきました。平成20年4月から健康診断の制度がかわります。病院は「病気の方」だけでなく「健康を気にしている方」にも、少しだけお役にたてるようになりそうです。どこかの期会に、また皆様にお会いできることを楽しみにしています。